「住まいづくりに凄く詳しい「友人」だと思ってもらえれば、ほぼ完成です(笑)。」
--鶴田さんは、長崎の住宅事情についてどうお考えですか。
長崎は港まで山が迫り出していて、平地が少ないですよね。基本的に購入できる宅地は狭いうえに安くはないし、肝心の建物に充分な予算をかけられない。新しく造成される土地も公共交通の便が悪い場合が多くて、俗に言う「理想の家」には程遠いかもしれませんね。その俗的な情報のせいで皆さん苦労されているな、と思います。
--情報のせい、ですか。
昔から住宅購入については「南向き」だとか、「気密性」だとか、「駅から何分」だとか、必ず出てくる情報というか神話みたいなものがあります。長崎でこれらの条件をひとつずつ消していくと、せっかく楽しい家づくりも、家族で暗くなっちゃいます(笑)。でもそれは一般論に過ぎなくて、そんな幾つかの神話についてもそれぞれ危険が伴うことを、住み手の方が知らない場合がほとんどです。
--南向きがまずい場合があると。
たとえばせっかくの南向きの立地を探し当てたら、リビングの奥まで光を入れようと、陽射しをできるだけ欲張って取り込もうとすると思います。ところがあまりの陽射しの強さにカーテンを閉めっぱなし。分譲宅地の場合はみんなが手を広げたように南を向いてるから、カーテンを開けたって隣の家の勝手口が見えちゃう。そんな家を見ると、北面は設計次第で一日中安定した光を確保できるのに、ということを教えたくなる。
--なるほど。確かに窓からの景色だって住まいの一部、という気はします。
住宅に限らず、人間が生活する空間としての建築は、環境との調和が必要です。昔から世界のあらゆる地域で、住宅はその個性的な環境を最大限に利用しながら、環境もまた住宅を利用している、という街が理想とされてきました。近代の日本住宅は残念ながらそれを実現しているとは言い難いのですが、最近では若い人を中心に、住まいを本当の意味で自分や家族の大切な空間にしようと試みるオーナーさんが増えてきたかもしれません。
--これまでマンションの設計を多く手がけていらっしゃいますね。
共同住宅は、分譲にしろ賃貸にしろ、戸建の建売住宅もそうですが、極論をいってしまえば住み手の意思は反映されません。ステレオタイプとしての入居者が画一的に想定されて、想像のもとに設計されますが、それだけに特徴的なコンセプトづくりが重要になります。時代の変化を読んだ生活習慣や家族像に照らして設定する作業は、非常にやりがいのある仕事といえます。住まいの本質に立ち返ると、それぞれの住み手のためだけに考えつくされた家づくりとは、個人的に別のものとして捉えています。
--確かに最近ではコーポラティブ住宅など、その境界線にチャレンジする例もありますね。
共同住宅では自身の仕事や子供の教育環境など、生活の中に住まいを組み込んでいく考え方はあると思います。住み手は立地を選び、最も適した間取りを選ぶ。供給側は選んでもらえるような配慮をしていきます。コーポラティブは自由な家づくりに重点をおきながらも、似た生活信念をもつ仲間と充実した共用部やコミュニティを構築するわけですが、購入した中古分譲マンションやビルテナントを個人的にリフォームを施して自分の空間をつくりあげる方もいらっしゃいます。いずれにしても、住まいは自分自身の生活のためにある、ということに気づく方が増えているんですね。
--建築家の方に相談を持ちかけることが、まだまだ敷居が高いという雰囲気があります。
そう思っていただけるなら、「特別な仕事をしている」という自尊心を初めてもてるかもしれませんね(笑)。しかし残念ながら金額のことだとは簡単に想像できるんですけれど、ハウスメーカーさんだって設計料はお取りになられていると思います。それよりも、「どうしても自分だけの理想の家に住みたい」というお客様の思いがあり、僕がどれだけその大切な思いを汲めるか、そんな「ゼロから始める共同作業」を通して生まれる住まいは必ず素晴らしいものになるということをお伝えしたいですね。
--建築家である鶴田さんが家づくりを行う場合に、大切にされていることは何でしょうか。
そうですね...。お客様からひとつでも多くの要求を引き出すことでしょうか。私が専門家であることと、お客様が家づくりに関して知識が薄いことは常識的な構図ですよね。そこに妙な距離をおかれる必要なんてありません。お客様の自由な表現で気兼ねなく思いを語っていただくことで、ご提案を重ね続けていくことができます。究極的には住まいづくりに凄く詳しい「友人」だと思ってもらえれば、ほぼ完成ですから(笑)。